オーガニックの進化系?化粧品、ワイン、食品etc.に広がる「バイオダイナミック農法」の今

「バイオダイナミック農法」と聞くと、ヴェレダやジュリーク、あとドクターハウシュカなどオーガニックコスメのブランドを思い浮かべる方が多いと思います。かくいう私もそういった認識だったのですが、世の中ではここ数年ちょっと違ってきていることを、ご存知でしょうか?

コアなオーガニックコスメ・メーカーがこだわる少し特殊な有機農法ととらえられていたバイオダイナミック農法ですが、ビオワインやフード業界で近年大きな注目を浴びているんです。フルーツや野菜、穀物、そしてオリーブや紅茶、コーヒーなど生産方法を極める食品を中心に「バイオダイナミックフード」とも称されて、アメリカのヘルスコンシャスな人たちの話題ともなっているのだそう。

今回は、日本ではほとんど知られていない「バイオダイナミックフード」について、また「バイオダイナミック農法」によるワインやオーガニック化粧品の最新情報などをご紹介したいと思います。なお、そもそもバイオダイナミック農法って何?という方も多いと思いますので、まずはそのあたりからご説明していきましょう。

バイオダイナミック農法とは?

バイオダイナミック農法とは、有機農法の中でも最も古くから実践されている自然農法です。農薬や化学肥料は一切使わず、地球に生きるものは太陽や月の満ち欠け、惑星などに関連があるという考えから、栽培方法の一つとして、宇宙のリズムに基づいた「種まきカレンダー」を使って種まきや間引きなどを行ったりします。

また、牛糞や水晶粉、花や樹皮を使った「調合剤」を使うのも特徴。通常の有機農業とは異なり、生産物が有機的であることだけでなく、生産システムそのものが生命体であることが意識される循環型農法です。この自然農法を提唱したのは、人智学のルドルフ・シュタイナーで、バイオダイナミック農法はドイツやスイスを中心に普及していたのですが、近年はアメリカをはじめとして日本など世界各国でも少しづつ広がりをみせています。私がバイオダイナミック農法のことを知ったのも、スイスで設立されたヴェレダや、ドイツのドクターハウシュカなどのオーガニック化粧品からでした。

バイオダイナミック農法を実践する化粧品ブランド

それでは、まずはコスメキッチンなどでもおなじみのいくつかのオーガニック化粧品ブランドにとって、バイオダイナミック農法がどれだけ意味があり、今後どういった取り組みがあるのかをご紹介します。

創業から99年サステナブルを徹底「ヴェレダ」

1921年の創設以来、一貫してサステナブルな企業姿勢を貫いているヴェレダから、興味深いレポートが先日発表されました。地球環境や人権への配慮のこと、そしてフェアトレード活動はもちろん、植物原料の生産国との継続的な各取り組みについても詳しく知ることができる内容です。

各生産国との取り組みとしては、原料を買うだけではなく、本国の農業技術者を派遣しバイオダイナミック農法などの価値のある農業技術指導を行うことも。

また、現地にとって必要な教育や医療支援なども積極的に行い、フェアトレードを超えたパートナーシップを構築。具体的には、ヨーロッパ最貧国と呼ばれるモルドバ共和国ではラベンダープロジェクトをスタートさせていて、2021年末までにバイオダイナミック農法に移行する予定とのことです。

シチリア生まれのオーガニックブランド「アルジタル」

ナチュラル歯みがきが超絶品のアルジタルも、バイオダイナミック農法によるハーブの力をとても大切にしているオーガニック化粧品ブランドです。生物学者フェラーロ博士が、生まれ故郷のイタリア・シチリア島のグリーンクレイ(海泥)の素晴らしさを伝えるために、1979年に設立。

数100万年分のミネラルをたっぷり含んだグリーンクレイ、南イタリアに湧き出る天然ミネラル水、そして「バイオダイナミック農法」による植物など、素材を徹底して厳選することで、肌トラブルに悩む人を本来の美しさへ導いています。この夏は、シーンや気分に合わせてそんなハーブの香りを選べる「アルジタル シャワージェル インヴィゴレイティング/リラクシング」が新発売されました。

バイオダイナミックワインへ高まる期待

次はビオワイン業界での一例です。オーストラリア随一のワイン産地で知られる南オーストラリア州は、最高のワイン生産地域の一つとして世界に認められています。

※画像はイメージです

さらに、バイオダイナミック農法を用い、自然のリズムとの調和を重んじて造られる南オーストラリア州のバイオダイナミックワインは大きな注目を集めています。そんな中、2020年7月にオンライン開催されたセミナーでは、世界で最もサステナブルなワイナリーベスト10 に選出されたマクラーレンベールを代表するワイナリー「Gemtree(ジェームツリー) Wines」と、アデレードヒルズでバイオダイナミック農法を実践する「Ngeringa(ネリンガ) Vineyards」が紹介されました。

コンラッド東京のソムリエ、森覚さんの解説やテイスティングにより、南オーストラリア州ワインの多様性とバイオダイナミックワインの魅力が深く伝わったとのこと。バイオダイナミック農法がワイン業界でますます価値の高まっていることを強く感じるニュースでした。

日本では北海道のワイナリーに注目!

バイオダイナミック農法によるビオワインは、もちろん南オーストラリア州に限ったものではありません。近年、ぶどう畑での実践は、フランスをはじめ全世界のワインメーカーで行われるようになっています。日本でも、北海道の洞爺湖有珠山エリア、壮瞥町仲洞爺にワイナリー「仲洞爺バイオダイナミック・ファームがあり、2010年からワイン造りに取り組んでいるなど、今後も増えてくるでしょう。

このように、ワイン業界がバイオダイナミック農法に積極的な現象は、とにかくできあがったワインの評価の高さが生じさせています。科学的根拠はさておき、バイオダイナミックワインは一種の流行にもなり、デメター認証を受けないもののその要素を取り入れているワイナリーも世界各地で増えているとのことです。

ちなみに、デメター認証とは、バイオダイナミック農法によって生産された農作物や製品に与えられるもの。その基準はEUのオーガニック規定よりもさらに厳しく、特にヨーロッパでは大変信頼の置けるオーガニック認証として知られています。

バイオダイナミック農法はぶどう栽培以外にも

ぶどう以外のフルーツをバイオダイナミック農法で栽培するオーガニック果樹園も、欧米で増えています。フランスには、そうやって育てられたりんごを使ったプレミアムなシードルもあるそうで、ぜひ入手したく思っています。

また、バイオダイナミック農法によるビールを造っている醸造所が信州にあり、こちらはクラフトビール特集を近日行う際にご紹介したいと思っています。

バイオダイナミックフードとは?

最後に、アメリカの中でも健康志向や美容意識の高い人たちが数年前から話題にしている「バイオダイナミックフード」についてご紹介します。

日本未上陸ですが、「Watermelon Recovery Drink」はバイオダイナミック農法のフルーツと野菜によるコールドプレスジュースです。使われているのは、レモン、タートチェリー、スイカなど。

他のメーカーからは、バイオダイナミックのカカオを使ったチョコレートとか、シリアルやトマトソースなども発売されているそう。こういったバイオダイナミックフードがアメリカでますます増えている中、日本にもワイン以外のバイオダイナミック農法による食品がようやく輸入されるようになってきました。

強力な抗酸化力を誇る「Oilala エキストラバージンオイル」

その一つが、イタリアOilala(オイララ)社のエキストラバージンオリーブオイルです。このオリーブは、プーリアに起源をもつコラティーナという品種で、非常にフルーティーでピリッとした苦味という特徴をもっています。この独特の苦味はポリフェノールによるもので、他品種のオリーブオイルよりも3倍以上ものポリフェノールを含有

ポリフェノールは、その強力な抗酸化作用により人間の細胞の老化を防ぐばかりでなく、オリーブオイル自体をより長持ちさせる効果も有します。そして、今回のテーマのバイオダイナミック農法については、1982年より日本のバイオダイナミック農業を開発し続けている団体のEM研究所の特許を得て導入。農薬はいっさい使用せず、微生物の働きかけで土と水の質が改良され、豊かなオリーブが育まれているんだそうです。

バイオダイナミックとは、「生命(バイオ=ビオ)」を統御する「力学(ダイナミック)」原理に従う、ということで、オーガニックの次のステップともいわれているそうです。

提唱者であるシュタイナーはアルコールを忌避していたのに、現在ビオワインの世界でここまで「バイオダイナミック農法」が注目されているのは面白い現象ですね。

また、「バイオダイナミックフード」がアメリカの健康セレブ層で盛り上がりかけているのは、かつてのココナッツオイルなどのヘルス・美容ブームと似たにおいを感じます。このあたりの動き、引き続き追いかけていきたいと思います。

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