中国茶好きの方にはよく知られている、「今古茶籍(ここんちゃせき)」の簡さんと私が初めて会ったのは、もう20年以上前になります。渋谷区富ヶ谷の三叉路そばに佇むその小さなお店は、日本におけるこれまでのかしこまった中国茶店のイメージからかけ離れていて、とても自由闊達ででも深みのある濃い空間でした。
そんな長年拠点としていた富ヶ谷から、数年前に山梨市の自然豊かな地に移り住むことになったと聞いたときは驚きましたが、新しい空間を作りたいと構想を紙に描きながら説明している簡さんの様子をFBで見て楽しみに変わりました。そしてついに、今夏にオープンするとの連絡をもらい、先日わくわくしながら山梨市へ行ってきました!
山梨移住でパワーアップした“簡さんワールド”
「ほぼ日新聞」サイトの“簡さんのお茶”で広く知られることとなり、「マツコの知らない世界」の中国茶特集回に風吹ジュンさんの紹介で登場したことで、そのこだわり具合とキュートさが全国区にもなった簡里佳さん。
長いおつきあいですが、東京では他のお客さんがいることが多く、時間を気にせずこんなにゆっくりお話しできたのは久しぶりでした。簡さんとの出会いのきっかけや今古茶籍の歴史についてはまた改めて書きたいと思いますが、今回はとにかく新店の魅力と簡さんと時間をともにした様子をお伝えします。
新店はのびのびとした空間で
山梨市駅から約800m、中央通りという駅からまっすぐの大通り沿いに現れる「今古茶籍」。
凝縮感のあった富ヶ谷のお店からこのひろーいスペースへ、茶器やおなじみのお茶の詰まった大きな缶がのびのびと並んでいる感じがします。
お店もご夫婦で一から内装を手掛けていて、壁塗りは簡さんの担当です。あとでFBを見たらその作業の過程が垣間見れましたが、何度も何度も色を塗って、最後に気持ちよさそうに絵を描いてました。
トイレも絵が描かれていて、あちこちに簡さんが楽しんでいる雰囲気が伝わってきます。
数年ぶりの簡さんのあたたかく美味しいおもてなし
数年ぶりに会った簡さんは、ちょっと貫禄がついてどっしりと風格が(笑)。お店に入って挨拶を交わしたかと思うやいなや、「パンできてるよお」という元気な声とそのトーンで、一瞬に色々なことを思い出しました。
富ヶ谷のお店での、うず高く積まれたお茶の缶に囲まれた中で中国茶を何時間も飲んだこと、お婆ちゃんの知恵的な台湾や中国の話を簡さんから聞かせてもらったこと、そして、台湾に行った際にお茶の産地や茶藝館や名勝地をいろいろ案内してもらったことなどなど。当時、富ヶ谷の近くに住んでいたこともあり、渋谷へ行く用事がある時は、自転車でぶらりと立ち寄ったりしていたのですが、引越してからなかなかタイミングもあわず、年に数回行けるか行けないかになっていた時もありました。アラフォーからって数年が過ぎるのはあっという間で恐ろしい・・・。
こだわりの天然発酵パンをいただいて
さきほどの簡さんの第一声の通り、マイブームの一つが天然発酵パンとのことで、できたての数種のパンで歓迎してくれました。今年に入り、お茶の酵素で発酵させるパンを何百キロも試作し続けているという簡さん。こだわりのすごい簡さんですから、もちもち感がありどれも美味しかったのですが、興奮したのはスイカ酵母のパン!ほのかなスイカの香りがたまりません。こういった季節のパンのほか、お茶の入っているパンは定番メニューとして用意されているそうですよ。
他の料理もお茶もそうですが、簡さんは納得できる状態になるまでとにかく試し作り続ける人で、この天然発酵パンに関してもお店で提供するまでに作った量を聞いて驚愕しました。そして、変わらないそのパワフルさにも。
自家栽培の野菜で手料理まで…!
さて、ここからは簡さんがプライベートで用意してくれた手作り料理です。お店のメニューとして提供されるのかわかりませんので、念のため。
鶏肉と豚肉と2種類もお肉料理を出してくれました!!お茶も入っているので香り高く、かつ脂もさっぱりといただけるので、なんか得した気分。
冬瓜のスープは、まだ暑かったこの時期なので、体内の熱を逃がすのにちょうどよかったです。
自分だとほうじ茶や緑茶などで作るのですが、中国茶の粥は初めて。今度自分でも試してみたいです。
ヘチマや、ナスなどの夏野菜炒めも、現地の食堂で食べてるような素朴でダイナミックな美味しさが!
とにかく野菜の味が濃くって、聞くとほとんどが自宅前の庭で収穫したものだというのです。
今後、野趣あふれる茶藝サロンになっていきそうなご自宅へも連れて行ってもらいました。巨大なヘチマや知らない野菜などに東京生まれ東京育ちの私はびっくりです。
奥深く、味わい深い中国茶の魅力
さて、本題の中国茶です。
生産者とのつながりを大切にし、現地に行って直接見て回り、現地の人に認めてもらえるようになるまで長い年月をかけてきた簡さん。台湾出身ですが、中国本土もあちこち出かけ、その訪問の様子は時々風吹ジュンさんと一緒の記事でみかけました。
中国茶は、緑茶、黄茶、白茶、青茶、紅茶、黒茶などいろんな種類があり、発酵により味わいが違い、香りの楽しみ方がある種ワインを飲む時と少し似ているように感じます。そしてものによって決してリーズナブルではない値段のものがあるところも似ています。
いいお茶は本当に風格を感じる、まさに嗜好品です。デイリーなものと、時々は自分を高めて贅沢な気持ちになるお茶と両方楽しめればいいと思うんですよね。私だって、シートパックはデイリー使いのものと、特別な日には自分を労わろうとお高めのパックだって使いますから。
今回は高貴な「東方美人茶」を購入
というわけで、自分を甘やかすために今回購入したのは東方美人茶。
台湾・新竹のお茶です。青茶の一種ですが発酵具合が高めで、紅茶に近い味わいです。ウンカという虫に茶葉を虫食いにさせて、その葉を製茶にすると甘い蜜のような香りがするという不思議なお茶。英語ではオリエンタル・ビューティと呼ばれ、高貴でかぐわしいとしかいいようのない香りです。
そもそも中国茶をなぜ好きになったのか。20代の頃、当時住んでいた近くの茶館で福建省の武夷岩茶にはまり、出張先の北京で中国茶の種類に驚いてあれこれ買い始めたのがきっかけでしょうか。その後、東京であちこちの茶館を探すようになり、「今古茶籍」と出会いました。
なお、中国茶、紅茶、ハーブティと変遷し(なぜか日本茶はハマらなかったのですが)、もともとほとんどコーヒーを飲むことがなかったのですが、ここ2年ほどはついにコーヒーを自ら淹れるようになり、自分でもいろいろバリエーションが拡がったなあと思います。でも久しぶりに簡さんのお店で何時間もお茶を小さな茶杯で飲んでいたら、ああ、人と会話するために中国茶はあったのだなあということを思い出しました。以前、北京から大変な思いをして運んできた茶盤をはじめ茶器をまた出してみようと思います。そして、コロナがおさまった暁には、友人たちとお茶を飲みながらああでもないこうでもないとお話をしたいと思います。