コロナ不活化効果を確認、古くから親しまれる伝統素材「柿渋」を深掘りする

2020年9月、「柿渋」に新型コロナウイルスを不活化させる効果があることを、奈良県立医科大学の伊藤利洋教授(免疫学)と矢野寿一教授(微生物感染症学)の研究チームが発表しました。2013年には、広島大学大学院の坂口剛正教授(ウイルス学)が企業との共同研究によって、ノロウイルスやインフルエンザ菌などを不活化することが既に示されていたので多少予測できたこととはいえ、今回のニュースには大変興奮しました。

私の知り合いには、藍染めや草木染めなどにたずさわっている人が何人かいて、「柿渋」自体についても元々かなり興味があります。そこで今回、この日本で古くから使われてきている「柿渋」に着目し、かまる新聞なりに3回シリーズで深堀りしてみたいと思います。

抗菌・消臭に優れ、生活に用いられてきた「柿渋」

「柿渋」とは、まだ青いうちに収穫した渋柿の未熟果を搾汁し発酵熟成させたもので、抗菌・消臭・防腐・防虫などの効果にすぐれた伝統的素材です。独特なにおいがあるというイメージが強く(今は新しい製法で作られた無臭柿渋もありますが)、また藍などに比べてやや地味な存在という印象もあります。

一般的な認識としては綿や麻などの布に使う染料用途ですが、10年ほど前からホルムアルデヒドの原因化合物を吸着中和する木造建物用塗料としても見直されています。

▲画像提供:柿BUSHI 

また、かつては、漁網、醸造用絞り袋、染色用型紙、渋団扇、和傘、漆器下塗りなどで幅広く活用されていましたが、今はその中では工芸品などがわずかに残っている程度。さらに、漢方薬としても知られていて、タンニンが血圧降下、火傷、二日酔いなどに効くともいわれています。

衰退から再評価へ。柿渋の歴史とは?

歴史的には、日本では平安時代から使われてきたとも言われており、前述した様々な用途で庶民の生活と文化を支えてきたそうです。特に江戸時代には全国的に生産されるようになり、江戸の町には柿渋を扱う渋屋という専門の商売も存在していました。その後も、第二次世界大戦までは、生活に欠かせないものの一つでもありましたが、戦後の急激な石油化学製品の発達により、他の自然素材と同様に急速に需要が減ってしまいます

しかし、ようやくここ数年、研究者だけでなく新しい世代の人たちもが積極的に「柿渋」に関する活動をするようになって、グローバルに環境問題が叫ばれる今、その天然素材としての価値が再評価されるようになってきています。

日本三大渋についてと最新の取り組み

それでは次は、産地からみる「柿渋」についてと、最新の取り組みをご紹介します。

「柿渋」は、日本全国(北海道と一部寒冷地以外の)で製造されていました。その中で、京都の山城渋、岡山の備後渋、そして岐阜の美濃渋が、日本三大渋とよばれていたそうです。それ以外には、福島の会津渋、越前/越中渋、埼玉の赤山渋などが代表的産地でしたが、そちらはほぼ途絶えてしまいました。

  • 山城渋

天王柿、鶴の子柿など、柿渋に適するよう改良が進んだ渋柿を原料として盛んに製造され、京文化や灘の清酒醸造にも貢献。現在、全国に流通している柿渋製品は、ほとんどがこの山城渋のものです。

  • 備後渋

最盛期には200軒近くの柿渋屋が存在したそうです。漁網などに多く利用され、また船体に塗料としても使用。船の帆にも使われて村上水軍などを支えたのですが、残念ながらその後すたれてしまい消滅しました。しかし近年、「ぬまくま民家を大切にする会」というNPO法人が復活再生させる動きがあったり、「ツネイシみらい財団」という地元の造船会社の財団が、再生を助成・支援したこともあります。

  • 美濃/揖斐渋

伊勢型紙に用いられるなど盛んに製造されていましたが、徐々に衰退。最後の一軒が残り、わずかに製造されている中、村おこしとして伊自良地方特産の伊自良大実柿を利用して製造が復活しています。今回は、その伊自良大実柿による柿渋で染色に積極的に取り組んでいる「柿BUSHI」さんの活動にフォーカスしてみました。

柿渋染色に幅広い取り組みを実施「柿BUSHI」

柿BUSHIさんは、世界で唯一、岐阜県山県市旧伊自良村北部にしか存在しない渋柿「伊自良大実柿(いじらおおみがき)」の魅力を伝えるために、幅広い取り組みをしています。

▲画像提供:柿BUSHI 

2016年にこの柿から取れる柿渋を復活させて、生地や糸の柿渋染めや、柿渋染めの加工品を作ることを中心に、染色の体験企画なども定期的に実施中です。

▲画像提供:柿BUSHI 

ここでは、現在予定されている体験イベントの情報をお伝えします。

〈常時開催の柿渋染め体験〉

  • ストールの柿渋染め体験

数種類のストールから好みの一つを選ぶことができます。体験料金4,500円〜。

  • 手ぬぐいの柿渋染め体験

絞りなどで自分らしい柄をつけてオリジナル手ぬぐいを制作できます。体験料金2,150円。※追加料金650円で手ぬぐい1枚追加できます

  • 持ち込み柿渋染め体験

Tシャツやバッグなど手持ちのアイテムを持ち込んで染めることができます。体験料金は持ち込み料によって異なります。

詳細はこちら

〈名古屋での出張柿渋染め体験〉

  • 出張イベントそして、名古屋での開催が決定!

日時…2020/11/14(土) 13:30-15:30
参加費… 3,500円~/ストール込み/ストールの素材により変動します
店員…12名

詳細はこちら

▲画像提供:柿BUSHI

柿BUSHIさんの活動内容やセンスに私はとても惹かれていて、東京でのイベント開催機会があることを大変楽しみにしています。

なお、伊自良大実柿は現在1,000本ほど残っているそうで、その約半数を生産者の方が管理していて、その一部が柿渋用に使用されているそう。柿のタンニン濃度が強い8~9月に青柿を収穫(柿ちぎり)し、柿渋製造業者で加工され、3年から5年後に熟成された柿渋となるとのことです。

奈良県立医科大学の伊藤教授によると、一定濃度の柿渋をまぜた飴やラムネを一定時間口に含むことで、新型コロナウイルスの感染予防効果が期待できるそうです。また、柿渋タンニンの除菌力は、緑茶カテキンでは不活化できなかったウイルスにも効果があることは以前から確認されています。こういった研究結果が、山県市をはじめとした各地の柿渋の再生活動を応援する力となるとよいなと感じています。

調べてみると、柿渋を使った商品は想像していた以上にバリエーションあふれていることがわかりました。「柿BUSHI」さんなどによる柿渋マスクのほか、除菌製品や消臭製品、使いやすく開発された塗料、そして隠れたヒットの飴や健康食品までも。次の2回ではそういった購入可能な柿渋商品をセレクトしてご紹介します。

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